ドイツでの新生活:ご近所さんとの上手な付き合い方

郷に入れば郷に従えっていうけれど?

でも、従う郷のことが分かっていなければ従えません。日本国内で新しい土地で生活を始めても、分からないことがあれば聞けばいいだけのことですが、海外での新生活となると、分からないのがその土地の慣習だけでなく、言葉やジェスチャーや常識に至っても分からないことだらけ、ああ、もうすべてが分からなくて面倒で・・・。そんな場合にそなえて、私がここドイツで経験した(し続けている)ご近所さんたちとのカルチャーショックを踏まえた上手な付き合い方を紹介します。

目には目を、歯には歯を、卵4個には卵4個を・・・?

スーパーがすべて閉店であるドイツの日曜日。隣のおじさんが、”ケーキを焼こうと思って用意し始めたのに、卵が4個足りないことに気づいたんだよ、卵ある?” と聞いてきました。”ありますよー、4個でいいの?” といって買い置きしてあった卵を4つ彼に渡してあげました。次の日彼の奥さんが、”昨日は助かりました、ありがとう。今スーパーで買い物してきたから卵お返しするわ” と言って6個入りパックを手渡してくれたので、”返さなくていいのにー、でもこちらこそありがとう” と言って素直に受け取り、玄関のドアを閉めてからふとパックを開けると。。。。卵が4個入っていました(つまり、2個抜き取ってあった!)。ここでまっさきに思い出したのが、ハムラビ法典の ”目には目を、歯には歯を”。あれは、仕返しいろという意味ではなく、倍返しをしてはいけないという規律なんだとういうことをどこかで読んだような記憶があるのですが、卵4個もきっちり4個で返ってきたのが、日本人の私の感覚だと ”????” であり、”2個抜くか?” であり、”いやがらせかも?” という疑惑まで浮かんでしまうという始末。。。。

4個の卵を4個返すのか、1パック全部返すのか、はたまた何も返さないのかというのはドイツだろうが日本だろうが個人的なこと。返す人もいれば返さない人もいますね。しかし、外国という地で、できれば近所の人たちとも仲良く楽しくやっていきたいのであれば、こういう ”???” な場合でもネガティブに受け止めないことがポイントです。”たかが卵なのにちゃんと返してくれるなんてなんて律儀な隣人だ!” と感動するくらいポジティブ思考で行きましょう。そして、自分が隣人から何かを借りなければならないときも、同じように気を使わずに借りた分だけ返せばいいわけで、余分な気遣いがいらないのです。

雪かきの境界線

ドイツでは雪が降り始めるとこんこんと降り続きます。歩道に雪が積もったままにしておくと歩行者が迷惑するので、自宅前の歩道はその家の住人が雪かきをする義務まであります(雪かきを怠ったが故、歩行者が滑って転んだら、その家の住人が責任を問われる。)さて、雪かきをしようと思って外に出たら、左隣りの家も右隣りの家もまだ雪かきをしていない、というある日。とりあえず自分の家の前の歩道の雪かきをしたものの、左隣りにも右隣りにも雪が積もっていて、自分の家の前だけがスノーフリーな状態が何とも言えず奇妙に見えてしまい、”これじゃあやっぱりご近所さんに嫌味だよなぁ” と思ったので、左隣と右隣りの雪かきをしてあげました。すると、隣の隣の雪もかいてあげないと嫌味だし、隣の隣の隣もそうなるとやってあげた方が・・・・と、エンドレスに近所の家の前の雪かきをする羽目に(自業自得だけど)。

じゃあ、ドイツ人はどうするんだろうと思って次の日は朝一番ではなく時差をつけて雪かきしに外に出てみたら・・・・。右の人はきっちり線を引いて自分の土地の前だけ雪かきしてあり、同じく左の人もきれいな直線で自分と我が家の境界までだけ雪かきしてあって。”え?” 昨日はみんなの分やってあげたのに。でもここで水に流したらカルチャーショック改善にならないので思い切って聞いてみたんです、遠回しに。”あとでうちが雪かきするとき、ついでにお宅の前もやっておこうか?” すると、”いや、そうするとお返ししなきゃならなくなるし、お返しのお返しも発生するし、お返しのお返しのお返しになるともうわけが分からなくなるのでやめようよ” という返答。

つまり、”自分のことは自分で、他人のことは他人に任せろ” ということらしく、それでいてちっとも近所同士の関係にヒビが入ったりしないよう。余計なことをしないのがドイツ流上手なご近所さんとの付き合い方なんですね。

気は使わず、笑顔と言葉はケチらない

挨拶の時に頭を下げる習慣がある日本では、ご近所さんに会えば軽く会釈することで自動的にあいさつ代わりになっているけれど、会釈の習慣のないドイツでは、ちゃんとはっきり言葉に出して挨拶しないとシカトして通り過ぎたように思われてしまいます。そういえば、知らない人と道ですれ違ってもハローと挨拶されたりニコっと微笑んでもらったりすることが実に多いです。

借りた以上のお返しをしたり隣の分まで雪かきしなくていいのだから、せめて笑顔ではっきり挨拶するくらいはサービスしてもいいですよね。難しいことを言う必要なんかなく、おはよう・こんにちは・こんばんは・いい天気だね・元気ですか・などといった月並みな一言でドイツ人は日常の中の人間関係を潤滑にしています。

休暇でどこかへ旅行に行っても、ドイツでは誰も隣人にお土産を買って帰ったりせず、まったく気遣いとかがありません。そのかわり、みんな我も我もと自分の旅行の話を道端で井戸端会議するから、ドイツ人にとっての最良のお土産は土産話のよう(つまり、言葉なんです)。どうせ言葉を人にあげるのであれば、笑顔であげよう。笑顔と月並みな挨拶言葉は万国共通なはず。

 

ABOUTこの記事をかいた人

大阪府出身。高校でテキサスの公立高校に1年留学、大学でカリフォルニア州UCSDに1年留学、西ドイツ銀行東京支店勤務後ロンドンビジネススクールでMBA。その後ブラウン社のドイツ本社で勤務、フランクフルト証券取引所に転職。現在フリーランスで国際コミュニケーション指導や通訳をする2児の母、フランクフルト在住。尊敬するのはイソップ寓話”アリとキリギリス”のキリギリス。子供が大きくなってきたので最近キリギリス業再開しました。