海外の職場の雰囲気−日本との違いは?

海外転職の表と裏

ドイツで就職すると、満員電車での長時間通勤やサービス残業などは。ドイツは労働者保護の法律が厳しいから、日曜出勤・休日出勤もほとんどなく、年次有給休暇もちゃんと消化できる。海外転職すると、表向きには労働条件が日本よりもずいぶんと改善されてライフスタイルが向上するかに見える。しかし表には裏が必ずあるもので、私がドイツ企業で働いた経験の中で、あっ!と驚いたことや、え?っと目が点になった、海外勤務の裏の部分を紹介しよう。

定時とやりかけ仕事、どっちを取る?

ドイツ人の会社員は時間を守る。もちろん、帰る時間を。私がプロダクトマネージャーとして勤めていたBraunでは、5時の定時でみんな蜘蛛の子を散らしたように会社を去っていたし、会議やプレゼン準備でどうしても残業になった場合はその週のどこかで早退してオーバータイムの蔵前をゼロにしていた。

定時を守るというのはいいけれど、やりかけの仕事をほっぽらかして帰る人が多いのにはびっくり。え?まだそれ途中だよ・・・という状態で平気で会社を去ることができるドイツ人、度胸がすわっててなかなかあっぱれ。。。なんだけど、それが自分と同じ課の同じ立場の同僚だったりなんかすると、え?いいの?どうするの?期限あるんだよ、守らないの?と、こっちがソワソワしてしまい、結局私は毎日毎日夕方になると同僚がそそくさと帰っていくのを横目で見ながらソワソワするという数年を過ごし、最後の方は自分の度胸のなさにがっくり落胆してしまっていた。

長期休暇とやりかけ仕事、どっちを取る?

時間リミットでやりかけ仕事が終わらないけれど家に帰るというのは、長期休暇の前も同じ。長期休暇(ドイツ人は3週間のまとまった休暇を取ることもごく普通)に入るというのに、やりかけた仕事が終わっていない。”仕方ないな、休暇後に続きをやるよ” と言って帰ってしまうか、”同僚のあなた、ちょっとフォローしておいてね” と任されてしまうかはケースバイケースだけれども、やり終えていない同僚の仕事のせいで迷惑するのは居残り組。そして、長期休暇のために仕事が滞るのが別に特別ではないドイツでは、取引先などの外部者にも ”担当者は休暇中なので、3週間してからまたどうぞ” と堂々と言ってのける。3週間して同僚が復帰して同じクライアントに連絡取ったら、今度はクライアントの方が3週間の休暇に出たばかり・・・ということも。2週間の休暇中に、会社に戻っても自分の椅子はまだあるのだろうかとドキドキしながら旅行していた自分が情けなくなるばかり。

個人責任と連帯責任、どっちを取る?

緊急仕事でよその課から書類を調達しなければならないときに、運悪く担当者が休暇中(もしくは病欠中)。でも、こちらの用事は緊急なので、その担当者の同僚にお願いしてみる・・・・が、”分からない” ”私の仕事じゃない” ”担当者が帰ってから出直してくれ” という返事ばかり。個人主義のドイツ、仕事も個人個人にきちんと割り振られていて、自分の守備範囲のことはきちんとやるけれど、他人の守備範囲に手や口を突っ込まないのがドイツ流。しかし、同じ課の人がお互いの仕事をカバーしない(してもほんの少し)という体制にはびっくりを通り越して怒り爆発。

いきなり長期病欠、周囲はどうする?

ドイツ人が休むのは有給休暇の時ばかりではない。月曜朝に医者に行ってみたら、その週金曜日まで会社を休みなさいという診断書が出されたりするのはごく普通。有給休暇の場合は事前にわかっているからそれなりに準備もできるし引継ぎもできるが、いきなり長期病欠となると仕事が本当に滞ってしまう。しかし、体に鞭を打ってでも出社してくるというのはドイツでは美徳でもなんでもなく、逆に ”病気がうつるじゃないか!” と煙たがられてしまう。病欠は ”人間だから当然だし、仕方のないもの” として立派に社会的な地位を確保しているのである。あまり風邪などひかないから会社を病気で休むことがなかった自分は、同僚の病欠の穴埋めばかりで、自分の掘った穴を同僚に埋めてもらうということがなく、なんだかいつも損した気分で出勤していた。

100点満点と80点の違い

日本では、周囲の人に迷惑をかけることがタブーで、お客様にはしっかり満足していただかなくてはならなくて、決まった納期や締め切りは必ず守るのが美徳であり当たり前でもある。つまり、常に100点満点をターゲットとしてそのために努力を惜しまない日本人。かたやドイツ人、人間のすることはパーフェクトにはなりえないという概念がどこかにこびりついているようで、80点で満足しようという妥協のようなものがどこにおいても感じられる。(きっと、ヨーロッパでは、この満足ラインが国や文化で違っていて、80点がドイツ人のボーダーラインだとすると、もっとボーダーの低い他の欧州諸国から見たら勤勉だということになるのだろう。そして、日本の100点は ”やりすぎ” と取られる。)

しかし、学校でも社会でも100点を目指す教育を受けてきた私は、80点で満足する人たちと一緒に仕事をしてみて、ガックリとイライラの連続を経験し、最後は、いつまでたってもドイツ流に慣れることができない自分に嫌悪感まで持った。結婚して子供ができて、会社員という形での仕事から離れたらこの苛立ちや嫌悪感から解放されるかと思いきや、子供の学校の先生の病欠の多さにびっくり、夏休み中も登校日もクラブ活動もないことにガックリ、同じ教科でも先生によるレベルの差が天と地ほどあることに腹を立て・・・ドイツでの私のガックリびっくりは延々と続く。

ところが、国レベルに視点を移すと、ドイツは日本より20点足りないにもかかわらず高い経済レベルを保ち、残業なしでも多くの国民が物理的にも精神的にも豊かに暮らせている。日本人がこの20点のために払っている犠牲は20点の価値以上に大きいのかもしれない。

ABOUTこの記事をかいた人

大阪府出身。高校でテキサスの公立高校に1年留学、大学でカリフォルニア州UCSDに1年留学、西ドイツ銀行東京支店勤務後ロンドンビジネススクールでMBA。その後ブラウン社のドイツ本社で勤務、フランクフルト証券取引所に転職。現在フリーランスで国際コミュニケーション指導や通訳をする2児の母、フランクフルト在住。尊敬するのはイソップ寓話”アリとキリギリス”のキリギリス。子供が大きくなってきたので最近キリギリス業再開しました。